敵を知らなければ、敵の攻撃から守ることも敵を攻撃することもできません。シロアリを駆除するには、シロアリを知らなければなりません。
最低でも、
- ヤマトシロアリ
- イエシロアリ
- アメリカカンザイシロアリ
の3種類のシロアリの生態と特徴は押さえておきましょう。
「DIYで自分で駆除する」という方は、シロアリの種類によって駆除方法が異なるので、自宅に発生したシロアリの鑑別が必要になります。
また「シロアリ駆除は業者に頼む」と考えている方も、シロアリの生態を知っておけば業者に的確な質問ができ、それが最適な駆除につながります。
まずはシロアリ全体のことをざっくり理解する
シロアリは名前に「アリ」とついていますが、地面でよく見かける黒アリの仲間ではありません。
シロアリはゴキブリに近い昆虫なのです。
世界には2,000種のシロアリがいますが、日本にはそのうち13種がいます。13種のうち住宅を壊すのは、次の4種類といわれています。
ヤマトシロアリとイエシロアリは、日本では大メジャーのシロアリです。
アメリカカンザイシロアリは外来種で、国内で発見されて日が浅いので生息地は限定的です。ただ機動性がとても高いシロアリです。
ダイコクシロアリは沖縄など南の島で見つかっています。
国内No.1はヤマト、2位はイエ
シロアリは7つの科に分かれていて、国内最大勢力を誇るヤマトシロアリと2番目のイエシロアリはミゾガシラシロアリ科に属します。
乾いた環境を好むという珍しい習性を持つアメリカカンザイシロアリと、沖縄に生息するダイコクシロアリはレイビシロアリ科に属します。
ミゾガシラシロアリ科(ヤマトシロアリとイエシロアリ)は、
- 社会性を持つ
- 巣は地下にも地上にも持つ
という性質を持ちます。
レイビシロアリ科(アメリカカンザイシロアリとダイコクシロアリ)は、
- 地下に巣を持たない
- 住宅の木材の中などに巣をつくる
という性質を持ちます。
森林の中のシロアリは善い存在
人間社会の中ではシロアリは恐るべき忌み嫌われる存在ですが、森林の中のシロアリは生態系の維持に欠かせない存在です。
シロアリの木を砕く習性は、倒れた木を分解して土に還(かえ)すことに役立っています。シロアリが土の中に網の目のように張り巡らせる巣は、土に水分と養分を与える「補給路」になり、土壌改良に一役買っています。
森林を正常に保つ強大なパワーが、人間社会では破壊につながってしまっているのです。
ヤマトシロアリ
まずは日本で最も大きな被害を引き起こしているヤマトシロアリについて見ていきます。
【生息地】沖縄から北海度南部まで広範囲
沖縄から北海道南部にまで生息するヤマトシロアリは、その名の通り日本の在来種です。
北海道の北部にヤマトシロアリが居ないのは、寒いからです。
ヤマトシロアリは寒さが苦手なのですが、昨今の地球温暖化により北海道を北上しているという情報もあります。
【巣の場所】ほとんどは床下の土の中だが、天井裏に出ることもある
ヤマトシロアリは、床下の土の中に巣をつくることが多い傾向にあります。床下は湿気が多く、ヤマトシロアリが嫌いな風や日光が入ってこないからです。
ただ巣ごと住宅内の結露ができる場所に移動することもあります。天井裏や押し入れの奥で巣が見つかったこともあります。
【見つけ方】3~5月に飛ぶ羽アリを見逃さないで
ヤマトシロアリは気温が低すぎると活動しません。気温6度ぐらいになると動き始め10度を超えると活発化します。ヤマトシロアリにとっての最適気温は28度で、それ以上高くなると再び活動が弱まります。
ヤマトシロアリは床下の土の中や天井裏などに潜んでいるため、住人が偶然見つけることは困難です。
3~5月にかけてヤマトシロアリの巣から羽アリが飛び立つので、それがシロアリ被害を見つける重要なきっかけになります。
ヤマトシロアリの羽アリの特徴を覚えておき、黒アリの羽アリと区別できるようにしておいてください。
というのも、3~5月に羽アリを見つけ損なってしまうと、来年まで発見できなくなってしまうからです。その1年間、シロアリの侵害が進んでしまうということです。
【特徴】羽アリの体は淡い黒褐色。家に巣くっている証拠
ヤマトシロアリの羽アリは体長5~8ミリほどで、体は淡い黒褐色です。
ヤマトシロアリは1つの巣に数万匹で暮らすのですが、巣がいっぱいになると、新たな巣をつくるために、オスとメスの羽アリがペアになって飛び立ち、新たな巣をつくるのです。
よって、羽アリを見つけたということは、その家にすでに数万匹のシロアリが巣くっている可能性が高いといえます。
小集団なので頻繁に移動する
1つの巣に数万匹いる、と聞くと驚異的な数に感じられますが、イエシロアリは1つの巣に数十万匹いるので、それに比べるとヤマトシロアリは小集団といえます。
そのためヤマトシロアリは餌を求めて移動することが容易なのです。
【構成】女王、王、働きアリ、兵隊アリ、ニンフ
ヤマトシロアリの構成は、次のようになっています。
- 女王アリ、王アリ
- 職蟻(しょくぎ)
- 兵蟻(へいぎ)
- ニンフ(羽アリまたは副女王になる)
1つの巣には、女王アリと王アリが1匹ずついます。この2匹は交尾と産卵しかしません。巣の中の数万匹のシロアリたちは、すべてこの2匹の子供です。
女王アリと王アリが生き続ける限りシロアリは増え続けます。王アリと女王アリの寿命は10~15年にもなります。
1つの巣の9割以上を占めるのは職蟻(働きアリ)で、これが餌となる住宅の木材を噛み切って巣に持ち帰るのです。職蟻は巣をつくったり、蟻道(ぎどう)と呼ばれる通過用のトンネルをつくったりします。
ヤマトシロアリにはそのほかに、兵蟻(兵隊アリ)もいます。強い頭部とアゴで外敵を攻撃して職蟻の活動を守ります。兵蟻は自分では餌を取らず、職蟻が運んできた餌を食べます。
ニンフは、女王アリや王アリが死んだときに代わりに女王・王に就任する副女王・副王のような存在です。
またニンフの一部は羽アリになって巣を飛び出し、別の場所で新たな巣をつくります。
【退治】被害場所近くを重点的に叩く
ヤマトシロアリは被害が発生している場所の近くに巣があることが多いという特徴があります。
また、土や糞を使って蟻道というトンネルをつくり、巣と餌場をつなぎます。ヤマトシロアリの職蟻はこのトンネルを通って「出勤」するわけです。
よってヤマトシロアリの退治方法は、被害場所の周辺や、蟻道から推測して巣がありそうな場所に薬剤をまくことになります。
ただ、ヤマトシロアリは小集団なので移動することが多く、発見した被害場所や蟻道が「過去のもの」の可能性があります。そこに薬剤をまいてもヤマトシロアリを殺すことができないので、駆除には「いま食われている被害場所」と「いま使われている蟻道」を探す必要があります。
イエシロアリ
イエシロアリはヤマトシロアリに次いで日本でメジャーなシロアリです。
イエシロアリは2位なのですが、一軒の家に与えるダメージはヤマトシロアリよりも大きくなる恐れがあります。
警戒を怠らないでください。
【生息地】沖縄~関東まで
イエシロアリは、鳥取県と千葉県を結んだ線より西または南の地域に位置します。すなわち、沖縄から関東までの範囲となります。
これはイエシロアリがヤマトシロアリよりさらに寒い場所が苦手だからです。
【巣】100万匹が住むこともある
イエシロアリは巣を、床下や勝手口の地中につくります。巣のすべてを掘り返すと大人1人がすっぽり入るくらいの穴になることもあります。
イエシロアリは1つの共同体で数十万匹からときに100万匹に達することがあるので、巣がこれほどの規模になるのです。
腰を据えて家全体を食べ尽くす
これだけの大所帯ですので、イエシロアリは巣を移動させません。一軒の家に腰を据えて住みついて、家のすべての木材を食べ尽くそうとします。
【見つけ方】
イエシロアリの見つけ方も、羽アリを見逃さないことが大切です。
6~7月の夕方から夜間にかけて電灯近くに飛来しますので、注意深く観察してください。
【特徴】攻撃力が強い
イエシロアリの攻撃力はとても高く、木造住宅だけでなく、鉄筋コンクリート造の建物にもダメージを与えることがあります。
また、ヤマトシロアリのように巣ごと移動することができないので、行動範囲が広くなります。蟻道(トンネル)を長くつくり、簡単に2階や天井裏に達します。
イエシロアリは水を運ぶことができます。自分たちで餌場に水をまき、自分たちが好む湿潤環境をつくりだして大暴れするというわけです。
人がイエシロアリの兵蟻を指でつつくと、噛みついてきます。ヤマトシロアリの兵蟻に同じことをすると逃げてしまいますが、イエシロアリの兵蟻は果敢に立ち向かってくるのです。
【構成】基本的にヤマトシロアリと同じ
イエシロアリもヤマトシロアリ同様、女王アリ、王アリ、職蟻、兵蟻、ニンフ(羽アリ、副女王)で構成されます。
これはヤマトシロアリにも共通していることなのですが、シロアリは孵化したばかりの幼虫の段階では、職蟻になるのか兵蟻になるのかニンフになるのか決まっていません。巣の情勢によって、将来の姿が決まるのです。外敵が多く巣が責め立てられていると、兵蟻を増やすことができるのです。
また、巣の中のシロアリの数が増えすぎてしまえば、ニンフを多くして羽アリにして、別の場所で新たな巣づくりを開始することもできるのです。
【退治】巣を掘り起こさなければならない
イエシロアリは巣ごとごっそり取り除く必要があります。巣を特定し、地面ごと掘り起こすことになります。
床下に巣があって地面を掘り起こす作業ができない場合は、薬剤散布とともにベイト工法を採用することになるでしょう。
ベイト工法を使うこともある
ベイトとは毒餌のことで、プラスチックの容器の中にイエシロアリの餌になる木材とベイトを入れ、容器ごと土の中に埋めます。イエシロアリの職蟻がベイト(毒餌)を自分の巣に持ち帰ると、仲間ごと死んでしまうという手法です。
ベイトは殺虫剤ではなく、脱皮をさせなくする薬です。イエシロアリを含むシロアリは脱皮を繰り返して成長するので、ベイトによって脱皮ができなくなると死んでしまうのです。
アメリカカンザイシロアリ
アメリカカンザイシロアリは、元は日本に居なかった外来種です。アメリカカンザイシロアリが潜んでいた海外の木材や木製家具が日本に輸入され、持ち込まれました。
【特徴】どのような環境にも適応する強敵
アメリカカンザイシロアリのカンザイは「乾材」と書きます。ヤマトシロアリもイエシロアリも湿気た場所を好むのですが、アメリカカンザイシロアリは乾燥したところでも普通に生息できます。
ヤマトシロアリとイエシロアリが蟻道というトンネルをつくるのは、乾燥した環境や風、日光など避けるためなのですが、アメリカカンザイシロアリはどのような環境にも適応できるので、蟻道はつくりません。
蟻道をつくらなくていいので機動性が高くなり、家じゅうどこにでも出没します。
【生息地】関東より南・西側。範囲は限定的
アメリカカンザイシロアリは関東より南側と西側に生息しています。東北以北にはほとんどいません。宮城県が最北発見地といわれています。
アメリカカンザイシロアリの生息地はヤマトシロアリやイエシロアリに比べると圧倒的に狭く、アメリカカンザイシロアリを駆除したことがない業者もいるくらいです。
【巣の場所】家の中のどこでも巣をつくる
アメリカカンザイシロアリは、土の中に巣をつくりません。その代わり家の中のどこにでも巣をつくることができます。
食べた木材の中に住むこともあります。
【見つけ方】羽アリは夏の昼間に飛ぶことが多い
アメリカカンザイシロアリの羽アリは、7~9月の暑い時期に飛来することが多いのですが、冬に飛ぶこともあります。
羽アリの飛距離は2~3メートルなので、羽アリの発見場所の近くに巣がある可能性が高いといえるでしょう。
糞が目印になることも
アメリカカンザイシロアリは食べた木材の下に大量の糞をすることがあります。
糞は1ミリほどの小さな粒で、それが山盛りになってたまっている真上の木材が被害に遭っているかもしれません。
【退治】駆除が難しく再発率が高い
アメリカカンザイシロアリは国内ではメジャーではないので、駆除方法が確立しているとはいえません。アメリカカンザイシロアリが発生しているのに、誤ってヤマトシロアリの駆除方法を用いる業者もいて、そのため再発率が高いといわれています。
また、1軒の家の中に複数の巣をつくっていることがほとんどなので、「数個の巣を駆除したけど巣が残っていた」という事態も起こり得ます。これも再発率を高くする要因になっています。
ダイコクシロアリ
国内でよく見かけるシロアリは以上の3種類ですが、最後にマイナーなシロアリながら、やっかいなダイコクシロアリを紹介します。
【生息地】沖縄、奄美大島、小笠原諸島
ダイコクシロアリは沖縄県に多いシロアリです。
そのほか、鹿児島県の奄美大島や東京都の小笠原諸島など、南の島に生息しています。
まだ本州上陸は果たしていないとされています。
【巣の場所】家じゅうを移動する
ダイコクシロアリもアメリカカンザイシロアリ同様、乾いた木材にも攻撃をしかけることができます。
土に巣をつくることなく、家の中に巣をつくります。ピアノや木製家具の中に住みつくこともあります。食害しながら移動するスタイルを取ります。
羽アリが出現する期間は3~11月とかなり長めです。
【退治】家ごと毒ガスを充満させる燻蒸しかない
ダイコクシロアリの駆除は困難を極めます。常に巣ごと移動するので薬剤散布の効果が出にくいのです。
ダイコクシロアリの駆除には、日本ではあまり行われないのですが燻蒸(くんじょう)処理が有効であるとされています。
住宅をビニールシートで覆い、住宅じゅうに毒ガスを充満させます。
しかし燻蒸処理は、駆除費用が100万円以上するのに再発率が高いので、あまり現実的な方法とはいえません。再発率が高いのは、毒ガスは薬剤のように長期間残留しないからです。
まとめ~「ヤマトではない」という判断が重要
シロアリ駆除業者の中には「どうせ今回もヤマトシロアリだろう」と考えている会社もあります。しかしヤマトシロアリ用に開発された駆除方法は、イエシロアリやアメリカカンザイシロアリに対しては、効果が落ちます。
優良な駆除業者は「イエシロアリやアメリカカンザイシロアリが見つかった場合は別途料金が発生します」としています。シロアリの鑑別をしっかり行っている証拠です。
家主が「ヤマトシロアリではない」と判断できると、業者が正しい判断をしているかどうかが分かるわけです。