鉄筋コンクリートのマンションでも、シロアリの被害に遭うことがあります。
マンションといえども必ずどこかにシロアリの餌になる「木」が存在し、シロアリはそれを求めて鉄筋でもコンクリートでも乗り越えていくからです。
でもご安心ください。マンションのシロアリ駆除に精通した駆除業者も存在します。そのような業者に依頼すれば、マンションでシロアリが見つかっても、しっかり駆除してもらえます。
ただ、マンションでシロアリ被害が発生した場合、「駆除費用を誰が負担するのか」という大きな問題が生じます。
そこで、マンションなどの集合住宅におけるシロアリ駆除の費用負担問題について見てみましょう。
「誰が支払え」というルールはなくケースバイケースになることが多い
集合住宅でのシロアリ駆除費用負担問題は、多くの関係者の利害がからむうえに、原因の特定が難しいので深刻化することがあります。
分譲マンションの場合、被害に遭った住人が駆除費用の全額を負担するのは気の毒な感じがします。
だからといってマンションの管理組合が支払うことになると、被害を受けていない高層階の住人はいい顔をしないでしょう。
マンションの管理組合とは、分譲マンションの所有者全員で構成し、マンションの共有部分を管理したり、修繕計画をつくったりする組織です。
マンションは入居者全員で守っていかなければならないので、管理組合は「マンションの自治会」のような存在です。
さらに賃貸の集合住宅では、分譲とは異なる問題も発生します。
「住人同士仲が良い」「共用部分に発生」ではもめない
シロアリ被害がマンションの最上階まで到達することはほぼ考えられず、被害は大体1~3階に現れます。シロアリにとって鉄筋コンクリートは進みにくい経路なので、マンション内での行動範囲は広くありません。
マンションのシロアリ駆除の費用負担では、「この人が負担すべき」というルールは存在しません。
よって、分譲マンションの住人同士のコミュニケーションがうまくいっている場合は、管理組合で支払うことを決めやすく、トラブルは発生しません。
また、マンションの非常階段やエントランス、廊下といった共用部分にシロアリが発生しても、管理組合が駆除費用を負担することで折り合いがつくでしょう。
「コミュニケーションが普通」「専有部分に発生」のときもめる
費用負担問題が深刻化するのは、住人同士の仲が特段よいわけではなく、1~2階の専有部分にシロアリが発生した場合です。
シロアリ駆除の費用負担の原則的なルールは以下の通りです。
- ある住人の過失によってシロアリが侵入したことが明らかな場合:シロアリが発生した専有部分の住人が負担する
- 専有部分の持ち主に過失がなく、そもそもシロアリに狙われやすいマンションの場合:管理組合が負担する
- 通常のマンション建設で当然行うべきシロアリ予防策を講じていない場合:マンションの建設会社が負担する
ただシロアリ被害では、このようにくっきりと「誰のせい」と言えないことが多いため、もめる原因になります。
シロアリはどのようにマンションを侵食するか
シロアリが木造住宅を好み、マンションを苦手とするのは、木の量です。シロアリの行動範囲はあまり広くありません。
シロアリが遠くまで移動するのは、シロアリの中の羽アリという種類のシロアリが新しい巣をつくるために飛び立つときぐらいです。
マンションでの被害が限定的なのは蟻道をつくる必要があるから
シロアリは日光や風、雨が苦手なので、巣から餌場までの間に蟻道(ぎどう)をつくります。
蟻道とは、シロアリが糞や土などを使ってつくるトンネルで、シロアリは蟻道の中を行き来して餌場まで進むのです。
蟻道はシロアリにとってもつくるのが大変ですし壊れることもあるので、それほど長距離つくることはできず、それでマンションでのシロアリ被害も限定的になるのです。
ただマンションには床下がないのでシロアリは侵入しやすい
ただ、マンションには床下がありません。
床下とは、住宅の床面と地面の間の空間のことで、木造住宅では一般的です。木造住宅のように床下があれば、シロアリは地面に突き刺さっている柱をつたってしか住宅内に侵入できません。
しかし床下がないマンションは、侵入口さえ見つかれば、土から直接マンション内に侵入できます。
マンションはシロアリにとって「侵害しにくい物件」ではあるのですが、同時に「アクセスしやすい物件」でもあるのです。ちなみに木造住宅でも玄関は床下がないのでシロアリ被害が出やすい場所です。
切り株や基礎の木枠が餌になることもある
マンションを建てるときに木を伐採して更地にした場合、もし切り株や木の根が敷地内に残っていれば、それがシロアリたちの餌になるので周辺に巣をつくりやすくなります。
マンションの基礎部分にコンクリートを流すときに木の型枠を使うのですが、コンクリートが固まった後にこの木の型枠を取り外さずにマンションを建設した場合、その木の型枠もシロアリを呼び寄せる要因になります。
木の型枠を取り外さない工法のほうが一般的なのです。
1階住人用の庭の植木も要注意
マンションの場合、1階の部屋だけ庭があることがあります。1階の住人がその庭に樹木を植えればシロアリにとって快適な環境になります。
さらにベランダに置いたプランターの中の土も、シロアリの侵入ルートの「中継地点」になります。
マンションには、シロアリが好む木が意外に多く存在するのです。
【分譲マンション】住人が支払わなければならないケース
それでは次に、分譲マンションにシロアリが発生したときのことを考えてみましょう。
分譲マンションの専有部分にシロアリが発生し、その専有部分の住人がシロアリ駆除費用を負担しなければならないケースは、
- 1階住人が植えた庭木近くに巣があった場合
- 住人が「シロアリの経路」をつくっていた場合
- 高層階の部屋に発生した場合
が考えられます。1つずつ見ていきましょう。
1階住人が植えた庭木近くに巣があった場合
1階の住人が庭に樹木を植え、庭木の近くにシロアリの巣が見つかった場合、その住人の責任は大きいといえるでしょう。
管理組合からシロアリ駆除の費用を請求されてもやむを得ないといえます。
庭に木を植えること自体は問題ありませんが、そのことで他の住人に迷惑が及ぶ場合は「木を植える権利」が制限されるでしょう。
住人が「シロアリの経路」をつくっていた場合
シロアリは日光が当たる場所を長時間歩くのが苦手です。しかし「中継地点」があれば、移動距離を延ばすことができます。
マンションのベランダにプランターやタイヤ、物置のようなものを置き、そこに蟻道が見つかったら、そこが中継地点になっていることは疑いの余地はありません。
そのベランダの住人がシロアリの侵入をアシストしたことになり、駆除費用の負担は免れないでしょう。
高層階の部屋に発生した場合
シロアリ駆除業者によると、シロアリは3階ぐらいまでは自力で勢力を拡大できるそうです。よって高層階の部屋にシロアリ被害が発生し、そのほかの場所に被害が見つからない場合、人の手でシロアリを運んだ可能性が高くなります。
もちろん意図的にシロアリをマンションの部屋に持ち込む人はいないと思いますが、大型の観葉植物の鉢の中に潜んでいたり、海外の木製家具に巣くっていたりすると、シロアリはやすやすとマンション内に入ることができます。
高層階で限定的なシロアリ被害が出た場合、その場所の住人が駆除費用を負担しなければならないでしょう。
管理組合の費用補助はありうる
住人の誰かの不注意でシロアリがマンションに侵入したとしても、駆除費用の全額をその住人に押しつけることは得策ではありません。
その住民を孤立させてしまうからです。
また、業者がシロアリ駆除をするときは、必ず予防措置も取ります。そのマンションは駆除処理する前よりシロアリに強くなるので、やはり管理組合としても多少は費用負担をしたほうがいいでしょう。
【分譲マンション】管理組合が負担するケース
マンションの共用部分にシロアリが発生したら、管理組合が駆除費用を負担することになります。
そのほかにも、管理組合が費用負担するケースとして考えられるのは、
- 1階住人に過失がない場合
- 被害が広範囲に広がっている場合
- 近くに森林があるマンション
などが考えられます。詳しく見てみましょう。
1階住人に過失がない場合
1階の部屋にシロアリが発生し、その部屋の住人に過失がない場合、管理組合は速やかに管理組合の費用負担で駆除することを決断したほうがいいでしょう。
「住人に過失があるかどうか分からない」状態でも、管理組合が費用負担したほうが無難です。
1階にシロアリが侵入することは当然のことであり、1階の住人がシロアリを発見してくれたからこそ、2階、3階へと被害が拡大しなかったと考えられるからです。
住民間の融和を図るうえでも「シロアリ問題は全体のこととして考える」ことが望ましいでしょう。
被害が広がっている場合
例えばマンションの1~2階の複数の場所でシロアリが見つかった場合、とても強いシロアリに侵食されたと考えるべきでしょう。
住民の中で犯人探しをするのではなく、管理組合がリーダーシップを取って早めの駆除に乗り出したほうがいいでしょう。
近くに森林があるマンション
都心から離れた高級分譲マンションは自然豊かな場所に建つことが多いのですが、「裏がすぐ森林」というマンションでシロアリが発生した場合も、管理組合が駆除費用を負担したほうがいいでしょう。
人のほうからシロアリに近付いたようなものなので、「誰のせい」という議論は不毛です。
それよりも駆除処理後もシロアリアタックが続く可能性があるので、管理組合の枠を超えて住民全体が一致団結して根本的な対策に乗り出したほうがいいでしょう。
【分譲マンション】建設会社が負担することは考えにくい
「シロアリが侵入しやすいマンションの構造」は考えられますが、住民がそれを証明し、マンションの建設会社の責任を問うのは簡単ではありません。
よって、マンションにシロアリ被害が発生しても、建設会社が駆除費用を負担することは考えにくいといえるでしょう。
「100%構造のせい」「管理上の問題ゼロ」を証明するのは難しい
住民側がシロアリ駆除業者に調査を依頼し、構造上の問題であると突き止めても、建設会社は認めないでしょう。
最終的には訴訟に持ち込むしかありませんが、住民側が勝つ確率は高くはありません。シロアリ被害の発生原因は、建物の構造と管理方法の両方が考えられるからです。
管理は住民の責任で行われるので、住民側はまず管理方法に過失がまったくないことを証明しなければなりませんが、それはとても難しい作業でしょう。
築数年なら自主的に費用負担するかもしれない
ただ、マンションが建ってから数年しか経っていないのにシロアリ被害に見舞われたり、その建設会社が建てたほかのマンションでもシロアリ被害があったりした場合、建設会社がシロアリ駆除費用を負担するかもしれません。
マンション管理組合としては、建設会社と交渉する価値があるかもしれません。
【賃貸集合住宅】住人が全額負担することはない
賃貸マンションやアパートのような賃貸集合住宅でシロアリが発生した場合も、駆除費用の負担の原則は分譲マンションのときと変わりありません。
つまり、
- シロアリの発生原因が住民の過失であることが明確な場合は住民が負担する
- そうでなければ大家または部屋のオーナーが負担する
となります。
駆除費用の一部負担で済む可能性が大きい
ただ賃貸集合住宅の場合、ごみ屋敷にしてしまった場合など特殊な事情を除いて、部屋を借りている人が全額費用負担することは考えられません。
部屋を借りている人に過失が多少あっても、駆除費用の一部を請求されるか、敷金が没収される程度で収まるはずです。
部屋を借りている人には部屋を損傷することなく使う義務がありますが、部屋を貸す側の大家やオーナーには、部屋を管理する義務があるからです。
逆に部屋を借りている人のタンスや衣服にシロアリによる損害が発生した場合、大家やオーナー側が損害賠償をしなければならないケースも考えられます。
まとめ~資産価値の維持のためシロアリ監視は全住民で取り組みましょう
3億年以上繁栄し続けているシロアリには、マンションといえども難攻不落の城ではありません。マンションの住人はシロアリの前では無力です。
シロアリだけでなく、ゴキブリや蚊も人間の隙をついてやすやすと集合住宅に入ってきます。害虫の監視には、全住民の協力が欠かせません。
誰かの部屋にシロアリが発生した場合、その人がシロアリを招き入れたと疑う前に、その人が最初の被害者であると認識して、マンション全体で対策に乗り出したほうがいいでしょう。
管理組合として迅速に駆除に取り組まないと、「シロアリが発生したマンション」というレッテルが張られてしまい、マンション全体の資産価値が落ちてしまうからです。
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