「シロアリ駆除を業者に頼むと、駆除費用の一部が戻ってくる」と聞いたことはありませんか。その噂は、半分本当で半分正しくありません。

「お金をかけてシロアリ駆除を行うと、税金が少し安くなる制度がある」が正解です。つまり、キャッシュバックのように駆除費用の一部が戻ってくるのではなく、「税金が減る」という形で家計から出ていくお金が減るのです。

シロアリ駆除を行うと税金が減るのは、「所得税の雑損控除(ざっそんこうじょ)」という制度があるからです。
ここでは、

  • 雑損控除の対象になるシロアリ駆除とは
  • いくら税金が安くなるのか
  • どのような手続きが必要なのか
  • そもそも「所得税の雑損控除」とは

について見ていきます。

雑損控除の対象になるシロアリ駆除とは

税金が減る金額は、シロアリによる被害額とシロアリ駆除の費用によって決まります。被害額と駆除費用が多くなればなるほど税金は減りますが、上限があります。

シロアリ被害額とは

シロアリの被害額として対象になるのは、

  • 住宅
  • 家具
  • 衣類

などの「生活に通常必要な資産」です。
これらを修理・修繕したときの費用が被害額として認められます。
税金を減らしてもらえるのは、これらの資産の所有者か、これらの資産の所有者の配偶者や家族です。

減税の対象になるのは生活に通常必要な資産のみなので、「生活に通常必要でない資産」は、いくらシロアリの被害に遭っていても、減税効果は得られません。
生活に通常必要でない資産とは、次のものをいいます。

  • 別荘など趣味、娯楽、保養、鑑賞用の不動産
  • 貴金属、書画、骨董で、1個30万円超のもの

シロアリ駆除費用とは

シロアリ駆除の費用でも、すべてが減税の対象になるわけではありません。
「駆除」の部分は対象になりますが、「予防」の部分は対象外となります。

ほとんどのシロアリ駆除業者は、駆除をするときに予防措置も提案します。実際、予防措置をほどこしたほうが安全です。
よって、シロアリ駆除で減税を受けるときは、業者に「すべての費用のうち、いくらが駆除の分で、いくらが予防の分なのかが分かる領収書」をつくってもらってください。

ただここは難しく考える必要はありません。シロアリ駆除業者も減税については承知しているはずなので、「減税の手続きに使える領収書にしてください」と言えば大丈夫です。

いくら税金が安くなるのか

それでは次に、いくら税金が安くなるのか、について見てみましょう。
この解説は少し複雑に感じるかもしれませんが、難しくはないので安心してください。

控除額は税金が減る額ではない

シロアリ駆除をした人の税金を減らす仕組みは「控除(こうじょ)」という方法を使います。雑損控除は、控除の一種です。
控除は税金が安くなる額ではありません。税金の額は「所得×税率=税金」で算出するのですが、控除は「所得から差し引く金額」です。

雑損控除などの控除が発生すると、「所得×税率=税金」という計算式が「(所得-控除)×税率=税金」となるので、控除の額が増えれば税金が減るというわけです。

シロアリ駆除の減税の算出で使う雑損控除の金額は、次の計算式の多いほうを使います。
A:シロアリ被害額+シロアリ駆除費用-保険金-所得×10%
B:シロアリ被害額+シロアリ駆除費用-保険金-5万円

シロアリ被害額とシロアリ駆除費用は、先ほど紹介した通りです。
保険金とは、住宅などにかけていた保険から支払われる保険金のことです。シロアリ被害によって保険会社から保険金がおりた場合、その金額は差し引くことになります。
所得とは、シロアリ被害を受けた資産の所有者の所得です。

雑損控除の額をシミュレーションしてみよう

それでは雑損控除の額をシミュレーションしてみましょう。

  • シロアリ被害に遭った住宅の修繕費(シロアリ被害額):30万円
  • シロアリ駆除費用:25万円
  • おりた保険金:5万円
  • 所得:300万円

A:30万円+25万円-5万円-300万円×10%=20万円
B:30万円+25万円-5万円-5万円=45万円

Bのほうが高いので、45万円がこの方の雑損控除額となります。

税金が減らない場合

この2つの計算式から、お金を出してシロアリ駆除をしても税金が減らないケースがあることが分かります。

A:シロアリ被害額+シロアリ駆除費用-保険金-所得×10%
B:シロアリ被害額+シロアリ駆除費用-保険金-5万円

「シロアリ被害額+シロアリ駆除額」の合計額が、所得×10%よりも5万円よりも少ないと、雑損控除の額が0円になるので、税金は減りません。つまり、被害額と駆除額の合計が数万円で済んだ場合(それは良いことなのですが)税金は減りません。

税金の計算方法

先ほどのシミュレーションの場合、雑損控除の額は45万円になると解説しました。これは控除額であって、この分丸々税金が減るわけではありません。

所得税は、
・所得税=(所得-控除)×税率
で算出するので、税金が減る金額は「雑損控除×税率」です。

さらに税率は、所得によって次のように変動します。

所得 税率
195万円以下 5%
195万円を超え 330万円以下 10%
330万円を超え 695万円以下 20%
695万円を超え 900万円以下 23%
900万円を超え 1,800万円以下 33%
1,800万円を超え4,000万円以下 40%
4,000万円超 45%

よって、所得が195万円以下の人がシロアリ駆除をして雑損控除額が45万円になれば、所得税は2万2,500円(=45万円×5%)安くなります。
所得が4,000万円超の人の雑損控除額も45万円だった場合、所得税は20万2,500円(=45万円×45%)安くなります。

以上は所得税のシミュレーションでしたが、住民税にも雑損控除が適用されるので、住民税も安くなります。

どのような手続きが必要なのか

シロアリ駆除をして所得税や住民税を安くするには、確定申告という手続きが必要です。
会社勤務の人の場合、普段は所得税も住民税も給料から天引きされていますが、シロアリ駆除による減税の手続きは自分で行わなければなりません。

自分で確定申告を行わなければならない

確定申告は1年に1回、2月中旬から3月中旬までの1カ月しか受け付けてもらえません。確定申告の手続きをする場所は税務署です。
例えば、2018年にシロアリ駆除を行った場合、2019年2月中旬から3月中旬に税務署に行かなければならないというわけです。

手続きは簡単、用紙に金額を書き写すだけ

シロアリ駆除の減税の手続きはとても簡単です。
会社からもらえる源泉徴収票と、シロアリ駆除や住宅の修繕にかかった費用の領収書さえあえれば、それらの金額を指定の書類(確定申告書)に書き写すだけです。

そもそも「所得税の雑損控除」とは

所得税の雑損控除は、「災害や盗難などの被害を受けた場合に税金を安くしましょう」という趣旨の仕組みです。

「災害や盗難など」の種類は、以下の通りです。

  1. 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
  2. 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
  3. 害虫などの生物による異常な災害
  4. 盗難
  5. 横領

シロアリ被害は3の害虫に該当するので、雑損控除の仕組みが使えるわけです。

ちなみに詐欺と恐喝による被害は雑損所得には計上できません。つまり、減税効果を得ることはできません。

まとめ~税金を減らすのは少し面倒

シロアリ駆除の費用の一部は、「税金が減る」という形で戻ってきます。税金を減らすには少し面倒な手間がかかります。
シロアリ駆除を行っても、役所や誰かが「減税の手続きを忘れないでね」と言ってくれるわけではありません。しかも減税の手続きは「翌年の2月~3月の間」に行うことになるので、うっかり忘れてしまった、ということにならないようにしてくださいね。